今回はTHE八犬伝を見返してみたのでレビューします。なんやかんや映画以外でレビューするのは初めてですね。
総評は「やっぱり無印のTHE八犬伝のが好き」です。
この作品は90年前後のOVA全盛期に作られた作品。原作は南総里見八犬伝で、江戸時代に書かれた伝奇小説です。1814年から28年かけて書かれていたり、ジャンプの長寿漫画さながらの長さがあります。全98巻ってなかなか恐ろしい…
そしてこのOVAは1話30分の全13話。原作の長さを考えたら『こんな尺で語り切れるわけねえだろうがぁ!!』とルフィがぶちギレそうです。
でもその辺のシナリオはちゃんとまとまっていました。主要人物の八剣士を出しつつもメインを3人に絞り(犬塚信乃、犬川荘介、浜路)13話で一本に仕上げてます。その分信乃、荘介以外の八剣士についてはやや掘り下げ不足にはなっていますが、ちゃんとメイン回を据えたり性格をキチッと見せたり最低限のフォローはしていました。
そしてややこしいのがこのOVA、無印と新章で2つに別れてます。無印が6話、新章が7話の構成です。2年くらい間隔が空いており、監督も新章から変わっているのが特徴ですね。
【作画】
この作品で外せないのはやはり作画です。
拾い画ですがこれくらい違います。ちなみに山形厚史さんがこの作品のキャラデザの人なのでこれを基準に考えましょう。左から無印1,2,3,4,5,新章3,4話となります。
『1話からもうおかしくねえか!!??』
1話に関してはまずシーンごとに挟まる八犬士のキャラの顔が変わるので、初見はまじで混乱しました。1話は八犬士のルーツとなる過去話と現在の八犬士の戦いを交互に見せる複雑な構成になっているのですが……作画も複雑にしたら何がなにやら。
ただ作画監督の特徴を前面に押し出しまくるこの作風は正直嫌いではない。1話からこれを見せられたからこそ、その後どんなに作画が変わろうと「おー」となったので製作者の思惑通りなのかもしれない…。
もちろん、この作品の作画は全体を通して高品質です。美麗な作画だろうが線が少ない簡素な作画だろうがグリグリ動きます。無印1話の八犬士が浅瀬で妖怪と戦う辺りや、無印4話の重量感・浮遊感のある動き、新章3話のレイアウトと殺陣、新章4話の全編通してのレイアウトと肉々しい作画…なんかが個人的に好きですね。もちろん無印2、6話の美麗な作画で動くキャラ達は何度見ても最高だし、新章6話の山形さん作画監督回の重量感ある殺陣も見どころ。
よく無印1話と新章4話が話題に挙がる印象ですが、それを楽しみたいなら通常回(?)も含め全部見ろ!!と叫びたくなりますよ。
【演出】
ここも特筆するポイントでしょう。監督が違うのもあるのですが個人的には無印の方が断然に好きです。
無印は安濃高志監督。Wikiを見るかぎり、ぴえろの魔法少女シリーズの中心スタッフの1人だったよう(ぴえろ魔法少女シリーズについては筆者は全く知らないが)。それらの経験を経て、セリフや音楽を最小限に留め登場人物の心境や状況を効果音や風景の積み重ねで浮かび上がらせる実写的な手法を用いていたようです。ちなみにめぞん一刻も一時期監督を務めていたよう。
THE八犬伝でもその演出は健在で、全体を通してそれが敷き詰められています。これを最初に見た10年前は正直シナリオやキャラの心情をあまり理解出来ませんでしたが、今回見返したら意外と見やすいなぁと。
特にこの作品は妖術や幻術、心象シーンが多いです。それを咀嚼出来るかどうかでかなり印象は変わります。無印については敵の妖術を赤、八犬士の守護霊は青と結構はっきり分けられているので頭に入れておくと物語にちゃんとついていけました。それでも5話はちょっとわからなかったが…
そして主題歌が秀逸なんですよ。「雨が3日続くと」なんかは視聴後感の余韻に最高に浸れます。奇数回、偶数回で主題歌が変わるんですが、どちらもキャラデザの山形さんの描いたイメージボードがバックに流れ画的にも贅沢。かっけえ…
新章になると主題歌も変わるのでこの点がまずガッカリ。新章の監督は岡本有樹郎という人ですが、調べてもあんまり出てこないのであまり語れません…。
ただ新章から明らかに演出や色彩がパワーダウンしています。無印は作画だけでなく色での魅せ方が上手かったんですが、新章にはそれがあまりない。特に「つまらないなぁ」と思ったのは新章の1話。作画は綺麗なんですが無印の最終回と比べるとパワーダウン感にちょっと耐えられなくなりそうでした。
ただ新章2、3話は八犬士を1名ずつメインに据えた回がきます。新キャラの人生観や既存キャラとの絡みが見られたのでここは普通に面白かったです。
でもやっぱり、全体的に見せ方が上手くないんですよね(新章3,4話は除きます)。思わせぶりな演出をしてるんですが、大した意味がなく冗長と感じるシーンが多い。テンポが悪いんですよ。新章5,6話はまだ見れますが、肝心の最終7話は面白くない。ラスボスを倒すには倒すんですが「え?」「これで終わり?」といった釈然としない感。
作品通してラスボスの思惑が1枚上手をいくんですけど、最後謎に巨大化して、謎に八犬士と戦って謎に敗れてしまう。
なんだそりゃ。
もうちょっとなんとかならなったのか…そんな気持ちは拭えないです。
【キャラクター】
今回見返したのはキャラの方を追いたいというのが大きかったんですよね。この作品、いにしえの腐女子さんには割と人気だったらしくて。
2話から6話までは今作のメインたる信乃、荘介、浜路の3人をメインに話が動いていきます。それに合わせ八犬士の犬山道節、犬飼現八が出てきて彼らに絡んでいきました。
個人的な押しは犬飼現八です。
こいつねぇ、あざといんですよ。
初登場は無印4話。偽物の村雨を足利家に献上した信乃に襲い掛かってきます。なぜか投獄されていたコイツですが、信乃を始末すれば元の地位に戻してもよいぞと言われており、武勲をあげる為に向かってきました。しかし戦いの最中に雷が落ち、二人は城の上から川に落ちてしまいます。
無印5話では信乃と一緒に近隣の村男(八犬士の犬田小文吾)に助けられましたが、そこから妙に信乃に優しいんですよね。多分「一緒に死にかけて命を拾った仲だ」といった感じなんでしょうが、『そんな関わりしかないなのに信乃を追手から命掛けで助けてくれる』んですよ!!
おいなんだこの仁義の人!なんで投獄されてたの!?外見だけ見ればコントロール出来ない暴の者にしか見えないのに!!
しかも無印6話では信乃の友人である荘介も命を懸けて全力で助けに行ってくれる。なんで!?
新章3話では1人で単独行動している所に、八犬士の1人と出会う。その男・犬村大角には妊娠した嫁がいるが会おうともしない。玄関の戸口を叩き呼びかける嫁を無視する大角。現八は「やっぱり家にいるじゃねえか!なんで顔もだしやしねえんだ!」とキレながら家に入ってくるんですが、大角が陰で涙を流してるのを見るや
「なんだよ泣きやがって。夫なら抱きしめてやればいいじゃねえか」
とか言うんですよ。
細かい事情は知らねえけど、こうした方が良いに決まってるだろ!そんな感じで全編に渡り情に厚い男なんですよね現八。
聖人だろ。
他の八犬士が微妙に自己表現が苦手なこともあってより際立つのがポイントね。
荘介もいいんですよ。密かに思いを寄せている浜路とその許嫁の信乃。憎いハズの男だけどしかし幼馴染の友人である信乃。無印3話では主人に村雨を盗んで来いと命を受けるんですけど、真正面から信乃に勝負を挑んでいっちゃう愚直さ。でもなんやかんやで拍子が抜けて村雨を諦めちゃう情の弱さ。可愛くてまっすぐなんですよね。
そしてそれに対する信乃もいい。戦に行かせない為に女の恰好をして育てられた信乃はどこか頼りない表情。でも荘介と二人になると少年のようにカラカラと笑う。
このギャップ・・・萌えますよね。
そしてこの信乃と荘介が新章4話で浜路の為に殺し合いをするのが最高に燃える展開なのですよ。画風が全く違うので全然気持ちは乗りませんが。
これが同一人物ですからね…
それにしても信乃は無印6話以降、髪型もボサッと男らしくなり、普通にイケメンになるので強いですよね。普通にイケメンなんですもん。通しで見ると戦績はボロボロですけど。
これは、当時の腐女子さまの気持ちがわかりますね。
それにしても犬山道節は一体なんだったんでしょう。
無印3話で浜路を殺し、浜路に託された村雨を信乃に届けず、無印6話で無言で罪悪感に苦しみ、新章1話で自分の部下を殺し、最終回ではラスボスにいい様にやられて終わる。
いいところ全くないじゃないですか?
味方を切り殺したのは全部ラスボスの見せる幻覚のせいだから仕方ないにしても、最終回でもその幻覚を突破出来ないのはどうなんですか?
山寺宏一さんの貴重なイケメンボイスなのに、イケボなだけじゃないですか。
あとこの姿はなんだったんだよ。無印1話に出てきてたけど、マジでこの時だけだったぞ。最終回でも金髪には染めてなかったぞ。無印1話が時系列的に一番最後というのは納得できるけど、パッケージにもなったお前の姿が1話のしかも画風乱れ打ちの中でだけっておかしいだろ。
お前は、なんだったんだよ。
【まとめ】
とにかく大好きなアニメです!!
作画も楽しめ演出も楽しめ、キャラ萌えも出来る!ある意味最強のアニメじゃなイカ?
ただ新章で見劣りする回があること、全体通しての客観的な視点も併せて★3.5の評価としました。
また時間が経ったら見返そう。
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