【★3.3】アリスとテレスのまぼろし工場 レビュー

アニメ

アニメ映画、アリスとテレスのまぼろし工場を見てきました。

こちら、監督・脚本が「とらドラ」「鉄血のオルフェンズ」「あの花の名前を僕たちはまだ知らない」の岡田磨里。副監督には「呪術廻戦」「ユーリonアイス」の平松禎史。アニメ制作会社は「呪術廻戦」「チェンソーマン」のMAPPAが担当しています。

監督の岡田磨里は個人的に、心理描写や感情表現の生々しさを感じます。とらドラはデフォルメの効いた作画に1対多の恋愛描写が絡む所が上手くマッチしてヒットした印象です。

ここからは映画のネタバレです。

総評としては「悪くないけど特別心に残るシーンはなかったな」という感じです。

舞台は製鉄で栄えた町の製鉄所が事故を起こし、その日から町は隔絶された世界になったというもの。そこでは人の身体的成長はなく、季節が移り行くこともありません(ずっと冬のまま)。

この世界の成り立ちについては「山をけずった山の神の怒り説」と「一番栄えた時期を残したかった神様の気持ち説」の2つが出てきますが、真実は定かではありません。ただ不安定な世界の為、いつ壊れてもおかしくないようです。

「この世界から逃げたい」と思った人間は神気狼によって消されるのですが、基本そうでなければ消えるわけではないようです。

この世界では「変化していくことで世界から消される」という認識があるのですが、主人公が画力を上げたり普通に他のキャラが恋愛をしたりして人間関係が変わっていったりします。なので心情や技量の面で変わったとしても神気狼によって消されるわけでもないようです。

佐上睦実の父親が変人で、大勢の前で意味深なことを言うのですが、これはほとんどがミスリードと言っていいでしょう。

世界観については結構飲み込めたので違和感はなかったのですが、今回残念だったのは特に感情移入出来るキャラがいなかったことでしょう。そのせいで印象に残るシーンもほぼないということ。

基本キャラの味付けは薄い印象です。主人公は「少し女っぽい男子学生」「絵が好き」「都会への憧れがある」といった特徴がありますが、絵が好きということ以外は特に本編で活かされることはありません。この町から出たいという気持ちはあるものの、特にそれで町から出ることを自分で模索することもなく、黙々と絵を描き続けている。変化に対するリスクと恐れから自制していた可能性はありますが、自分からの動きはないので巻き込まれ型の主人公ですね。

ヒロインの佐上睦実は割と面白いキャラです。一見大人しそうだがどこか思い切りのある行動をする美少女。ただその思い切った行動にいたる感情の機微がよくわからなかったです。冒頭の屋上でパンツを見せるシーンだったり、後半で「キスしたくらいでいい気になんな」って主人公を拒絶したりするシーンだったり…リアルな女子っぽくも感じるけど結局なんなの?という。

五実が主人公との娘だとわかった後でもそれまでの行動に説明がつかないので、ヒロインにヒステリックさを感じています。強いて言えば五実が主人公に体を摺り寄せてるシーンにハチ会うところは、自分の娘に手を出そうとしている主人公に対しての怒りとして理解は出来るんですが…

あと五実への母親としての心情が最後に強調されますが、ここも上手く機能していません。睦実の家庭事情はさらっと説明はされており、今の父親である佐上衛が母の再婚相手であるらしいです。母親は今の世界になる前に死んでいる為登場しませんが、その両親との家庭環境がどうだったのかはまるで描写がありません。父の衛が娘に対して無関心であるように、睦実が離れた小屋のようなところに追いやられていることくらいしか描かれないんです。

睦実は父の衛に対し「おっさん」とけなしたり「お母さんはあんたの悪口を一つも言ってなかった」と話しています。そう、この二人の関係性は非常に悪いのですが、母親に対しどういう感情を持っていたかはそのセリフの端々から想像するしかありません。

なので、睦実が持っている「母はこうでなければいけない」という母親像がボヤけているんです。五実が自分の娘であることを知りながら上手く接せられないことへの罪悪感を持っていても、それが視聴者によく伝わらない。最期の汽車のシーンで何か五実に色々語りますが「急にどうした?」感は否めない。

あとこの作品、五実の身体の成長によって時間経過を把握することが出来ます。物語のはじめから約10年くらい経過しているでしょう。ただ、これは個人的には中途半端だなと感じます。

『この世界で一人成長する特異な存在』なのですから、もっと大人にしても良かった気はします。せめて主人公たちより年上になるくらい…身長で主人公を超えたりするとか。その方がこの世界の残酷さを表現出来ただろうなぁってのが惜しいなと思う所です。

それと作品全体に言えることですが、結構説明セリフが説明っぽすぎる感じがします。特にキャラクターが心情を表現するシーンが随所にあるんですが、なんだかなと。子供っぽい拙い表現を書いたのかもしれませんが、私は監督が思いついた表現を羅列していってキャラクターに言わせているだけじゃないのか?と思ってしまいました。

キスシーンが長いのはいいんですが、あそこですらちょっとクドい説明が続きます。他にも「スイートペイン」とかなかなかに異彩を放ってましたね。こんなこと突発的に言わないでしょう。

他に惜しいなと思ったのは主人公の母親。世界が最後を迎えようとしているところで「いいおかあちゃんでいないとね」と意気込む姿はなかなか良かったんですが、やはり下地が微妙なんですよね。

夫である主人公の父親が物語前半で失踪するんですが、すぐ家に父の弟である叔父さんが来て父親のことは後半までほとんど触れられません。母親の描写もほぼそれまでないんですよね。

「母親像」が割と重要テーマなのに、ここら辺が凄くボヤってしているのはどうかと思います。

ただこの叔父さんが結構ぶっとんでいて面白かったですね。この主人公の母を狙っているんですが、「いいおかあちゃんでいる」宣言された後に「貴方を良い母親で終わらせるつもりはありません」と言い主人公と対立して世界の均衡を保つ側に立ったのは良かったです。こういう微妙に生々しい個人的動機で物語を動かしていくのは岡田節を感じましたね。

でもやっぱりそれ以外のキャラクターについては『監督の表現したいことを言わせるbot』としか感じられない薄さしか感じませんでした。あとデブ男はただただ不快です。

…と、脚本に対しては色々感じましたが、作画はとても美麗です。背景も製鉄所の廃墟感やそれに合わせた効果音が映画館ならではの迫力を感じさせます。キャラ作画も綺麗でよく動きますね。流石MAPPAという感じです。

なので、上手く世界観や設定を活かしきれなかったのが本当に惜しく感じます。ピントを絞るにしても、もっと上手く処理することは出来た気がする…

つまらなくはないですが色々とモヤモヤが残る映画でした。

アリスとテレス…って、結局なんなんでしょうね?

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