【★3.5】トラペジウム_レビュー【過ちを受け入れられるか】

映画『トラペジウム』、観てきました。

公開初日と夜勤明けが重なったので、僥倖ですね。

この作品は「その着せ替え人形は恋をする」「ぼっち・ざ・ろっく!」で脚光を浴びているClover Workの新作長編アニメ映画。ジャンルは青春ものでしたね。

総評です。

個人的には『あんまり好きではないけどコンセプトの面白い作品』でした。

この作品は大体A,B,C,Dパートくらいに分けられます(作画監督が4人なので4パートくらいの想定で制作されてるはず)。

A,主人公がアイドルユニットを結成する為にメンバーを集める

B,テレビ局から注目を受け実際にアイドルとして仕事を始める~初LIVE

C,アイドルの仕事を通じてメンバーの考えの食い違いが出る~解散

D,主人公が過去を振り返る~エピローグ

個人的にAパートは凄く退屈でした。「ちょっとコレはダメなタイプの作品かもしれない」と感じたんですが、Aパート後半から徐々にギアが上がってきます。

色々あって主人公と集まったメンバーの方向性が食い違い、最終的には瓦解。ただアイドル活動を通じて各々が自分のやりたいこと、大事なことを見つめなおしていきます。

10年後に主人公はアイドルになる夢を叶え、それぞれ別の道を歩んだメンバーたちと再会してハッピーエンドと相成りました。

【賛否両論点】

なんといっても主人公。凄く癖が強い。

主人公がアイドルになる為に他のメンツを道具のように扱ってるんですよね。凄いです。特にCパートは自己中の極みです。ドン引きでした。

集めてきたメンバーは『他のアイドル作品にも出てきそうな、個性強めの美少女』なんですけど、それと比べると明らかに主人公が異質。見た目も地味めで、実際アイドルになってからの人気も他メンツより劣る。でも、アイドルへの憧れ、意識の高さは誰よりもある。

そのアイドルに対する意識が異常なんですよね。盲目的というか。主人公がユニットメンバーを集める際も「かわいい女の子がアイドルにならないなんて勿体ない!」と思っており、そこに悪気なんてものは存在しない。

徹底的に『他者の意思を尊重しないし意識しない』まま動いちゃうんですよね。良いことをやっている、そのことにいつか気付いてくれると思ってるから。

それが悪い方向に出まくったのがCパート。メンバーの気持ちを全く汲まず欺瞞に満ちたことを口走るシーンがもう、ね。

負のカタルシスが爆発するので、良いと思います。

普通に印象悪いんですよ、主人公。糞です糞。糞人間。

でもプロデュース能力は高い。自分も含め『東西南北』をコンセプトにしたアイドルユニットを作る方向性を最初から決めて売り出そうとしてた辺り、そっちの才能は本物だと思う。

あんな別れ方だったのに皆が再会した主人公を受け入れたのも凄い。聖人過ぎる。あんなことあったら普通に二度と会いたくないよ。

【気になった点】

作品のコンセプトを理解するまでは結構退屈でした。Aパートは画的にもかなり平坦だし、動きも特に面白い所がなかった。動画枚数が多いからギリギリ映画っぽく見えましたが、OVAクラスと言われてもしょうがないレベルかなぁ…と。ぼっち・ざ・ろっくの方が普通にリッチさを感じるレベルです。

ライブシーンはCGと手書きの切り替えが自然で少し驚きましたが、そもそもCGの出来がそこまで良くなかったのがうーん…ライブの規模感はもともと小さかったので、演出がそこまで派手でないのはまぁいいかなと。

あとはサブキャラのカメラマン眼鏡くん。主人公がアイドルになるまでのサポートを担っており最終的にカメラマンとして自分の夢を叶えていましたが、イマイチ物語とあまり噛み合っていないような。

主人公の道具の一部として使われていたという扱いでいいのか…共謀者と見ればいいのか…なんというか。眼鏡くんは眼鏡くんで既に自分の好きな物が明確なので、メインキャラのアンサー的な役割として物語に組み込んだほうが作品としてわかりやすかったんじゃないかなぁと。

主人公に恋心を抱くかと思えばそうでもなく、思春期陰キャ男子の気持ち悪いムーブだけ残して終わっちゃったのはちょっともったいないかなぁ。

【良かった点】

Bパートからの不穏さが楽しかったですね。Aパートから感じていた違和感がどんどん確信に変わっていく感じが。「いつ瓦解する…いつ瓦解する…」とニヤニヤ身構えていました。

Cパートは分かりやす過ぎるほど作監けろりらパートだったのでちょっと笑いましたが、シリアスに描くとこんな感じになるのかぁと、作画的に楽しめました。

ていうかCパートから動きと美術といきなりクオリティ上がってる気がしてびっくりなんだけど。絵柄が変わったのもびっくりしたけど。え?って。

けろりらさん以外のパートももっとちゃんと把握出来ればよかったんですが、ここは私の目が良くなかったですね。作画監督の癖をもっと見極めねば…。ただBパートからちょこちょこ上手いなぁというカットが増えていった気がしたので、やっぱりAパートだけちょっとクオリティが…って気はします。

【まとめ】

結局のところ、主人公の所業が許せるかどうかが評価の分かれ目でしょう。

最近ガールズバンドクライとかで癖の強い主人公も見ていますが、それとは違いますしね。ガルクラは純粋故の暴走って感じがしますが、トラペジウムは計画性がある分印象がかなり悪いです。

脚本的には割と挑戦的なことをやっているので、個人的には楽しめました。でも好きなキャラクターはいないので、同様に作品としても好きではないかなぁ…という感じです。

【追記】

テーマについて触れてなかったので追記。

主人公の行動によるコミュニティの崩壊が衝撃的だったので忘れてしまっていました。

前向きに捉えるとこの作品のテーマは『自他の受容』と『自己実現の肯定』と感じました。

前述した通り、主人公は自分の都合で他人を振り回し、そして失敗しました。

そのシークエンスの後、主人公は自分が悪いことをしたと反省し、自己嫌悪しました。それを母に吐露したシーンが、この作品の核だと思います。

性格悪いよね私、とぽつりと言った主人公に対しての返しが

『そういう所もあるよ』

と受け入れてくれました。ここ、なんか時間が経ってから心に染みてきたんですよね。

性格悪いことは否定しないけど、それだけじゃないことを母はわかっている。多面的な人間性の許容。このプロセスはこの後解散したメンバーと再会する時にも描写されていました。

失敗したことは反省しつつ、長所である『往生際の悪さ』を武器に

主人公はアイドルへの道を再び歩むことを決意しました。取り返しようのないと思われる失敗をしても、生きている先にこれからがある。自分を知り受け入れることで、前進する勇気を得られたんですね。

なのでこの作品、中盤までサスペンス染みた怖さを内包していますが、最後まで見て咀嚼すると非常に前向きになれるテーマが存在します。人生どん詰まりしてるような人ほどハマるのではないでしょうか?

描写として甘い部分はあったと思いますが、見せたいシーンと伝えたいテーマはしっかり表現されているので良い作品だと思います。万人向けとは思えませんが(笑)

それでは、また。

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